【一流学:一般公開特別講演】リーダーとしての仕事術

『リーダーとしての仕事術』水野和敏氏(元 日産自動車 GT-Rプロジェクト総責任者)

イノベーションを起こし、未来を創る。仲間を思いやる心が、チームワークの密度を高め、メンバーの能力を無限に引き出す。それがリーダーの仕事だ。

☆IMG_6028人は一人では、何もできません。何かを成し遂げるためには、人と力を合わせることが必要。だから人は大昔から、組織を作って動いてきました。現代で組織といえば、企業がその典型です。私自身、日産自動車という大企業にいました。そこで思い知ったのは、大企業ほどエネルギーを無駄遣いしているということ。仕事にかけるエネルギーの6割ぐらいが、組織のコンセンサスを取るために使われていて、創造に向けられるエネルギーは、わずかです。
そんな無駄が起こるのは、組織の目的が管理することだからです。過去の成功体験を積み重ねて運用し、効率化を図るのが組織です。ともするとクリエイティブな発想は、前例がないことを理由に潰されがちです。
これに対して、徹底した未来志向で、新しい何かを創造するための集団がチームです。組織が部下を数とみなして管理するのに対して、チームでは部下を能力を捉えて、その力を最大限に発揮させることを考えます。そんなチームを率いるのがリーダーであり、その役割はメンバーの力を引き出すこと、この一点に絞られるのです。

メンバーの気持ちをまとめるリーダーの力

人は、人のために何かをしようとする時、最高の力を発揮します。しかも有限の世界の中で、ただ一つ無限にあるのが人間の能力です。その能力をフルに発揮する場がチームであり、力を引き出すメカニズムがチームワークです。
以前、1000キロの耐久レースに出場するチームの監督を務めたことがあります。この過酷なレースでは、連続で1000キロ走りきった最後のストレートでのトップと2位の差は、わずかに400メートルです。まさに1000分の0.4の差、0.04%の違いが勝負を分ける。
こんなぎりぎりの勝負にもかかわらず、100%勝てるチームを作りました。参戦したすべてのレースでチャンピオンを獲得したのです。なぜ、そんな離れ業を実現できたのか。これこそがチームワークの力です。チームワークは、人と人の輪の緻密さによって成り立ちます。輪を作るカギは、メンバーが目標を共有することです。
例えば前年の優勝タイムが6時間32分なら、これを2分縮めれば勝てる。すると「2分短縮」がチームとしての目標となります。この目標を、ドライバーが30秒短縮、ピット作業のメカニックが30秒短縮、クルマ自身の性能アップで1分短縮と、各メンバーにブレイクダウンします。各メンバーが自分の目標を達成するために、どうすべきかと自分で考え始めた時、レースは終わっていると言ってもいい。
リーダーとして私が取り組んだのは、例えばドライバーに対する目標を、ドライバーの夢として提示することです。当時のエースドライバーは「日本一速い男」と呼ばれた星野一義さんでした。そんなすごい人に、素人の私がいうことを聞いてもらうためには、感性のキャッチボールを繰り返すしかありません。言葉だけでは通じないのです。
同じ「好き」という言葉を使っても、それが意味するものは人によって必ず違います。だからチームは合宿し、寝食を共にすることで、言葉では伝わらない感性を共有するのです。

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馬鹿になれるのがリーダー

リーダーは何を心がけるべきでしょうか。リーダーの権限は、メンバーからの信頼によって生まれます。信頼を得るためには、チームの嫌なことを、すべて引き受ける覚悟が必要です。
同時に捨てる覚悟も必要です。チームが取り組む活動は、未来を創るプロジェクトです。これまでなかったものを生み出すのだから、基本的には失敗すると考えておいたほうがよい。それでも成功率を少しでも高めるためには、可能な限り余計なことを切り捨てることです。例えばキーボードを切り捨てたからiPhoneが生まれ、羽根を取り去ったからダイソンの扇風機ができたのです。
捨てる決断をするのがリーダーの仕事です。失敗したら、その責任を一人で被る。だから格好を付けたがる人、恥をかきたくないと考える人、自分を守ろうとする人が、リーダーをやってはならない。そんなリーダーに率いられたチームは、必ず失敗します。人からけなされても構わない、バカと指差されても構わない、そう思えることがリーダーとしての資格です。

本質を究めることがリーダーへの道

馬鹿になれ、全ては人の幸せのためにやれ、自分の欲を捨て去れ………。リーダーとは損な役回りです。それでも、一人でも多くの人にリーダーを目指して欲しい。
その理由は、何かを成し遂げるためには、リーダーになるしかないからです。人は一人では何もできません。思考を現実化するためには、仲間の力を借りるほかない。仲間の数が増えるほど、大きなことができます。人類のより良い未来を創りだすためには、多くのリーダーが必要なのです。
そんなリーダーになるために、どうすれば良いか。仮に組織の中で何か新しいことを思いついたとしましょう。それを実現するには、本質で攻めるしかありません。例えば、これまでになかった考え方の新しいクルマを提案するときに、どうするか。お客様の言葉を集め、彼らの要望からクルマのあるべき姿、本質をあぶり出すのです。本質で固めた提案に対しては、上司もトップも、ノーとは決して言えません。
本質を見極める力をつけるには訓練が必要です。訓練法は、とにかく想像力を磨くこと、これに尽きます。人はどうすれば、喜んでくれるのかをテーマに、ありとあらゆることを想像するのです。想像力を鍛える上で、最高のトレーニングとなるのが恋愛です。誰かと恋に落ちれば、常に相手のために想像力を働かせるはず。
ぜひ、想像力を磨き、本質を見抜く力を養い、素晴らしいリーダーとなってください。
[文:竹林篤実]
(平成26年11月15日(土)一般公開特別講義 『リーダーとしての仕事術』より。広報誌”Newsletter” vol.6 掲載)